大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)444号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

補助参加人の参加によつて生じた費用は補助参加人の負担とする。

理由

上告人及び上告人補助参加人の上告理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について。

論旨は、本件第二号買収計画は後に変更されたにかかわらず、原判決が右計画を是認したのは違法である旨を主張するのである。

しかし原判決は右計画の適否について審理判断を加え、所論山林部分は右計画に包含されていないものと認定し、道路部分については、所論のようにすでに上告人の所有地でないとすれば、その部分について計画の取消を求める利益はない旨を判示しているのであつて、原判決が上告人の請求を容れなかつたのは当然である。論旨は原判決は憲法六五条に抵触する旨を主張するのであるが、原判決の趣旨の誤解に基く主張であつて採用できない。

同第二点について。

論旨は、原判決は訴訟の対象になつていない既成の行政処分を取消変更したのと同様の結果を生ずる旨を主張するのであるが、所論他の行政処分の効力は、本件判決によつて何等の影響を受けるものでないことは明白であるから論旨は理由がない。

(1) 論旨は、本件買収計画樹立当時、計画区域中に山林が包含されていた旨を主張するのであるが、原判決は、所論の山林は右計画に包含されていないものと認定しているのであつて、論旨は要するに原判決の事実認定を非難するに過ぎず採用できない。

(2) 論旨は、所論道路敷に関する原判示を非難するのであるが、所論のように県道用地として買収済みであれば、右土地について上告人の所有権はなく、上告人はその部分について取消を求める利益を有しないものといわなければならない。この点に関する原判示は正当であつて論旨は理由がない。

(3) 論旨は原判決は、判例に反して裁判所が行政庁に代つて行政処分をしたのと同様の効果を生ずる判決であつて違法である旨を主張するのであるが、原判決は本件買収計画が違法でないとしたに止まり、所論のような違法のないことは明白である。論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は、一、二審における被上告人の訴訟代理人は、法務大臣の権限等に関する法律五条にいわゆる「所部の職員」ではないから、これを指定して訴訟を行わせたのは違法である旨を主張するのである。しかし、記録に徴するに、右代理人は一時的にもせよ被上告委員会の書記であるから、所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第四点について。

論旨は、当裁判所第一小法廷の判決を援用して農地買収計画に関する異議決定、訴願裁決は取り消すことができない旨を主張するのであるが、原判決は異議決定、訴願裁決が取り消された事実を認定しているのではなく、第一号買収計画が取り消されたことに帰する旨を判示しているに過ぎない。援用の判決は、訴願裁決庁が原処分を取り消す旨の裁決をし、後に自らその裁決を取り消すことができない旨を判示しているのであつて、本件と場合を異にする。異議、訴願を棄却する決定、裁決があつたからといつて、原処分庁が原処分を取り消し得ない理由はなく論旨は採用できない。

同第五点について。

論旨は行政行為の効力は証拠によつて否定できない旨を主張するのであるが、原判決は所論の行政行為があつた事実を否定するものではなく、また、その効力を否定するものでもないから論旨は理由がない。

同第六点について。

論旨は、旧法久街道道路敷を農地として買収したのは違法である旨を主張するのである。

しかし、原判決の認定するところによれば、右の土地は従来私有道路として通行の用に供されたこともあるが、現在では、附近に居住する小阪政夫宅に至る通路として使用されているに過ぎず、その面積は幅三尺数坪の僅少部分であるというのであるから、それ自体独立して価値のあるものとは認め難く、買収農地にかかる土地が含まれているからといつて直ちに計画そのものを違法として取り消すべきものとはいえない。論旨は理由がない。

同第七点について。

論旨は判例を援用して本件買収計画は区域が特定されていないから違法である旨を主張するのである。

しかし、原判決の認定するところによれば、買収区域は現地の地形状況から判然他の部分と区別せられるというのであるから、その区域は特定されているものというべく、本件買収計画を是認した原判決は先例に反することもなく、また違法の点もない。論旨は採用できない。

以上説明のとおり本件上告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条、九四条後段に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例